中編 作戦実行

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 私は暴走する思考を一旦頭から追い払い、あの人の視線が私を捉えているのを確認すると、手にしていたガムをバックに入れた。 ――これはきたでしょ!  手応えを感じながら、早る気持ちを落ち着かせてお菓子売り場から出ようとした時だった。 「痛っ」  コーナーを曲がった矢先に誰かとぶつかり、思わず声を上げた。誰とぶつかったのかと、おでこをさすりながら確かめようとした 瞬間、突然、腰に伸びてきた腕に抱かれ、ぶつかってきた相手の顔が間近に迫ってきた。 「俊一?」  目の前に現れた顔に驚いて声を漏らす。けど、それ以上は声が出なかった。いつもふんわりした雰囲気しかない俊一の、見たこともない真剣な眼差しがそこにあった。  心臓が喉を通り越しそうなくらい激しく乱れ打っていた。目眩がしそうなほど急上昇した体温に、視界がぼやけそうになっていた。  俊一が何か言ったけど、耳に入らなかった。そのまま俊一の腕から解放されたけど、意外と力強い腕の感触が明確に残っていた。  なぜか気まずい空気のまま、私は声も出せないまま店の外へ向かった。後ろを俊一がついてきているのはわかってたけど、いつもの居心地の良さは感じられなかった。 ――どうなってるの?  これまでとは違う俊一との空気に、私は頭が混乱しそうだった。いつもなら、痛いじゃないと軽く小突いてやるのに、今は俊一を見るだけで何もできなくなっていた。  そんな、よくわからない気持ちのまま店の外へ 出た。万引きしたことなどすっかり頭から抜け落ちていた。  だから、突然現れた人影に自分でも呆れるくらいの狼狽を見せた。当然、その人影は私の狼狽に気づき、満面の笑みで声をかけてきた。  しまったと思った時には遅かった。  一瞬で全身の血が引いていくのを感じた。  私の前に現れた人影。  それは、明らかに疑いの目をした警察官だった。
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