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「学生さんかな? ちょっといい? 最近万引きとか多くて色々と声をかけさせてもらっているんだけど、協力してくれる?」
口調は柔らかいけど、明らかに疑いをかけている瞳は冷たく感じるほど鋭かった。
――ヤバ、どうしよう
私は返事に詰まりながら、ガムを入れたバックに視線を向けた。そんな私の反応を見逃すはずもなく、警察官はにこやかに所持品検査を求めてきた。
ここで応じたら、私は間違いなく捕まってしまう。警察官に泣き落としが通じるとは思えなかった。そうなったら、退学は免れないだろう。
バックを強く握りしめながら、俊一に目を向ける。俊一は無関係とばかりに距離を取って涼しい顔をしていた。
――俊一の言う通りだった
涙が出そうなくらい後悔しながら、私は俊一の言葉を思い返した。万引きGメンに一目惚れし、接点を作る為に万引きした私を、俊一は心の中で笑っているんだろう。
最悪なことに、近くまであの人も来ていた。私の犯行を見ているあの人が加われば、もう私に逃げる道はなかった。
なかなか所持品検査に応じない私に、警察官の口調が荒くなる。もう駄目だと覚悟した私は、力なくバックを開けた。
――あれ?
バックを開けた瞬間、私は異変に気づいて声を漏らしそうになった。バックの中に、確かにガムを入れたはず。けど、バックの中にはあるはずの盗んだガムは見当たらなかった。
結局、警察官の調べも盗んだガムが出てこなかったからあっさりと終了した。何がなんだかわからないまま惚けていると、なぜか警察官の調べに参加してこなかったあの人が、今頃になって声をかけてきた。
「間一髪だったようだね」
柔らかい口調で声をかけながら、あの人は俊一に手招きする。ばつの悪い顔をした俊一が私の隣に並んできた。
「どうなってるんですか?」
「どうなってるというのは?」
「あ、いえ、その――」
「万引きしたのに、商品がないことかな?」
警察官には捕まらなかったとはいえ、あの人には全て見られている。だから、どう答えるか言い淀んだところで、あの人があっさりと万引きのことを口にした。
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