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「ね、ちょっと話さない?」
いつの間にか私の隣に男性が座っていて、にこやかに話し掛けてきました。歯並びの悪い前歯がノコギリみたいに見える人でした。
私は彼について訊ねてみることにしました。
「皆さんは同じ学科なのですよね。彼とは仲が良いのですか?」
その問いに、ノコギリさんは「おや」という顔をしました。
「まぁそれなりに付き合いはあるけど……。何、あいつ狙い?」
「特に狙ってはいませんが……、少し気になります」
それを聞いて、ノコギリさんはなぜかにやりとしました。
「そっか。いやね、あいつはちょっと変わってて、女にもあんまり興味示さないからオレ等で無理矢理引っ張ってきたんだ」
「はぁ。変わってらっしゃるのですか」
「そう。何ていうか歳の割に枯れすぎてる。学校にも山の中から電車で二時間近くかけて出てくるし。寮に入りゃいいのになぁ」
山の中から二時間。私の脳裏に、昔読んだ手袋を買いに来る狐の童話が過りました。
再び見つめた先で、彼は煮物の油揚げを美味しそうに頬張っていました。
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