某日、放課後

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 今日の放課後、屋上で待っています。  靴箱の中に入っていた可愛らしいメモ帳に導かれてやってきた先で、南雲はフェンスに寄りかかり校庭を眺めている。アスファルトが敷かれているわけでもないのに降り注ぐ夏のせいで陽炎がゆれるその場所は野球部やサッカー部、陸上部などが拠点としていて、今日も変わらず声を上げながら汗水垂らして一生懸命ランニングをしていた。  オーエ、オーエ。  北高ー!オエーイ!  自分と同じいがぐり頭に帽子のスタイルを十人ほど確認したところで数えるのをやめて、仕方がないと大きなため息と一緒に現実逃避していたことに向き直る。本当は認めたくなくて、いっそ青い青い空でも見上げたままでいたかったのだけれど、現状は南雲にそれを許さない。じりじりと攻撃を止めない猛暑のように、しつこく話しかけ続けてくるのだから、その根気の強さはたいしたものだと思う。 「うん、でも、嫌な予感はなんとなくしていた…」 「あれ南雲、何途方に暮れてんの」 「…誰のせいだ」  可愛らしいメモ帳。屋上へのお誘い文句。少女漫画を読まない自分でもそれだけ揃えば心が躍る。しかも高校三年生の夏。たとえその可愛らしい文面がきったなく丸みも帯びていない文字であったとしたって、いやな予感が頭をよぎったって、まあでもそんな女の子もいるかもななんて期待してしまうお年頃なのだ。現に見た目も動作も可愛くたってその書き文字は漢文ですかと問いたくなる女子生徒はクラス内にいたし、ごっつい強面柔道部の主将の学級日誌を除いたらアイドル顔負けの丸文字だった。そういったことをつらつらと思い出すのも現実逃避の一種なのだろうか。だとしたら結局南雲は何一つ現状と向き合えていない。  結論を言おう。結局、屋上で南雲を待っていたのは可愛くもなんともない丸坊主の野郎どもばっかりだった。あの時の落胆の気持ちを誰か分かってくれるだろうか。学校で一番空に近い屋上に来たはずなのに、南雲の気持ちは地面の深くまで沈んでいる。  さらば、俺の青春。  さらば、可愛い女の子とのラブロマンス。
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