某日、放課後

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 まあ、屋上に呼び出されたからといって何かあるわけでもない。仮に呼び出し場所が体育館裏だったって、少年漫画じゃあるまいしリンチだとかなんだとかそういった物騒なことも無かっただろう。何よりそろいも揃って、南雲を迎えた面子は一昨日部室でぷんぷんに臭う靴下を投げ合い互いに致命傷を負った仲である。クラスこそ違うが入学当初から部活動で同じ高みを目指した仲間でもあって、喧嘩こそたびたびあったが今更不穏な空気になることはない。オーエ、オーエ。もう少し日にちが立てば蝉の声も混じるだろう校庭の声を聞きながら、南雲はごそごそとさっきから落ち着きのない同級生たちをじろっと眺めた。 「で、結局呼び出して何の用ですか」 「もちろん、これだよ、これ!」  急遽敷かれたブルーシートはどこから調達してきたんだろうか。風で飛ばないように青い四隅は教科書の重みで変形した通学鞄によって重石をされている。その上に自らも重石になるように乗っかっている親友、西村はそれらとは別の鞄を背中から下ろし、シートの中央に置いた。  北高野球部、西村と表面にでかでかと刺繍されたこれまたでかでかとしたエナメルバックは使い込まれてぼろぼろであったがさほどそれは珍しいことではない。南雲だって同じくらいにぼろぼろに使い切ったものが家に置いてある。そこから西村は仰々しくペンギンを取りだした。 「じゃじゃーん。ペンギンくん二号!」  訂正、西村が取りだしたのはペンギンの見た目をした可愛らしいかき氷機だった。現実のペンギンらしからぬ水色のボディは直射日光で暑い屋上に涼しさを運び込み、赤い蝶ネクタイはとってもキュートだ。二号ということは先代のペンギンくんも居たのかもしれない。  もうどこからつっこめばいいのか分からない。  南雲が呆れて何も言えずにいると、たかだかと見せつけるようにペンギンを掲げる西村の後ろで、東野と北見が同じように各々の名前が刺繍された鞄から小さめのクーラーボックスやらイチゴシロップやらを取りだしていた。準備万端か。道理で朝からこいつらの荷物が多いと思った。 「南雲は何味がいい? イチゴ味と苺味といちご味」 「東野、東野。選択権ってなんだか知ってるか?」 「しかたねーだろ、北見が朝っぱらからブルーハワイ盛大にぶちまけたんだから」 「しかたねーだろ段差がそこにあったんだから」 「何か言うことは」 「ごめん」
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