某日、放課後

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「てか、いくらクーラーボックスに入れてるからって、もう氷溶けてるんじゃねーの?」 「うん、もう昼休みには溶けてた。だから、帰りのホームルーム終わってすぐに一番近くのコンビニまで走って買ってきた」  ほら溶けてない氷!と東野がクーラーボックスから袋に入った氷を取り出すと、西村と北見から「おお!」と歓声が上がった。それを受けて流石俺の脚力と笑う東野に、お前のうちのチーム一番の俊足は屋上という高みを目指すためのものだったのかと深いため息がこぼれる。どうやらこいつらは本格的にかき氷屋さんを始めるみたいだった。だったら屋上の入り口付近に「氷」と書かれたトリコロールカラーの旗でも掲げてくればいい。年々酷くなる暑さに参っている生徒相手にはさぞ商売繁盛するだろう。すぐに先生方によって差し押さえになりそうだけど。  西村はペンギンくん二号の上部を取り外し、氷をがらがらと入れた。横についたハンドルをガリガリと回し、同じく鞄から出てきたプラスチック製のお椀にこんもりと白くてきらきらした夏の風物詩を積み上げていく。いちごシロップをかければもう完成だ。経緯はどうであれ立派なかき氷を差し出されて、南雲は素直にそれを受け取ってしまった。暑さに参っていたのは事実だし、喉も乾いていた。言い訳はたくさん浮かんだけれど、受け取った時点でもう負けも確定なのだからわざわざ並べるだけ無駄だ。  鬱陶しいにやにや笑いを三人分無視してスプーンを握って初めて、そういえばランニング独特のかけ声が校庭から聞こえなくなっていることに気付いた。代わりに聞こえたのは、カキン、というノック独特の甲高い音。 「あ、もう守備練始まってんだ」  南雲の次にかき氷を受け取った北見が、スプーンをくわえながらフェンス越しに校庭を眺める。南雲も背中をフェンスに預け、少しだけ首を回すことでちらりと北見と視線を同じ所へ向けた。屋上に呼ばれた当初の現実逃避の時にも思ったが、こうやって、野球部の練習風景を上から眺めるのは初めてかもしれない。新鮮な気持ちは、けれど沈んだ心を持ち上げるのにはとうてい力が足りなくて、南雲は唇を引き結んだ。
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