某日、放課後

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 ガリガリと調子よく氷を削っていた音が聞こえなくなって、代わりに西村のやけに明るい声が南雲を引き戻した。 「そういえば南雲はさあ、今年の夏はどこに行きたい?」  唐突な問いだった。けれど西村のこういった唐突さは珍しいものではない。視線を彼へと向ければ、いちごシロップのたっぷりかかった山頂をすくい上げて美味しそうに口に入れた西村が、にまにまと南雲を見ている。 「どこって」 「ほら、海とか山とか。遊園地系も有りだな。あ、北見はどーよ」 「俺はエアコンの効いた部屋で漫画を読んでいたいです」 「どこに行きたいかってのを聞いてんだよ現代っ子。ほら東野、お手本を見せつけてやりなさい」 「図書館。あそこ涼しいから勉強捗るんだよ」 「真面目か!まったくどいつもこいつも!」 「だって俺行きたい大学あるし。そーいう西村は?」 「もちろん海だね、海! サーフィンやりたいし、水着のお姉さん方はいるし、水族館はあるし、海産物うめーし!」 「西村が水族館とかめちゃくちゃ似合わない」 「あれじゃね? デートの下見」 「彼女もいないのに?」 「水着のオネーサンでもナンパするんでしょ。無理だと思うけど」 「お前等うるせーわ!」  そう言う西村が一番うるさい気がする。  しかし、夏休みに行きたい場所ときた。二年の夏にも同じ話をした覚えがあるけれど、はてさてどんな答えを出したっけと南雲は眉間にしわを寄せた。あの時は時間がなくて、なかなか行きたいところに行けなかったから、こういった「もしも」の話はすごく盛り上がったのだ。  今年の南雲たちは、海にも行けるし、山にも行ける。行こうとさえすれば、きっとどこだって行ける。  行けない場所なんて。 (行けない場所、なんて)
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