某日、放課後

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「あ、やべ」  かき氷を口に運びつつ、ずっと校庭を眺めていた北見がふいに声を出した。やばい、と言いつつ彼の声はどこか飄々としている。いつものことだからあまり気にしたことはないが、それ故に危機感がどこか遠く感じるのだ。当然、その言葉を拾い上げた西村の声ものんびりしたものになる。 「北見、どーした?」 「高井センセーに見つかった」 「うっわ最悪だ」  思わず南雲も校庭を見れば、高井先生ーー野球部の顧問で、南雲たち三年生の学年主任の先生がこちらを見上げながら、校舎へと走っているところが視界に入った。上ばっかむいていると絶対に何かにつまづくぞとかき氷を差し出しながら茶化してやりたい所ではあるのだが、今回において付属する説教は自分たち宛てであるため、そうも言ってられない。むしろやったら火に油ってやつだ。深刻な顔で、西村が言った。 「よし、逃げるぞ」  今更だが、この北高、屋上は立ち入り禁止なのであった。それを踏まえて、呼び出しされたときの南雲の心がどれだけ浮き足だっていたのかを改めて理解していただきたい。  えっさほいさと三人が撤収の準備をしているなか、南雲はふと北見が隣に置いていったかき氷を見下ろした。その視線は東野と西村のかき氷の方へと移り、最後に自分の手元へと戻ってくる。どれもこれも半分ほど食べて、ちょっと溶けかけたかき氷。  ちょっとした悪戯心が、南雲をくすぐった。 「北高野球部の鉄則!その七!」  腹から出た声に、びくっと三人の肩が跳ねた。条件反射だ。ばっと自分へと集まった視線に、にんまりと南雲は笑ってみせる。なんとなく、自分が悪い顔をしているんだろうなということは南雲自身分かっていて、すかさず非難中傷が雨霰のように飛んでくる。 「うわ南雲主将」 「鬼!悪魔!卑怯者!」 「いまそれを言うか」 「ははん、旅は道連れってな」  どうせ今から逃亡準備をしたところでばれて怒られるのは明白だ。  あと自分の純情を弄んだ罰である。完全に南雲の私怨が混ざっていた。 
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