某日、放課後

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「旅は道連れの使い方絶対違う」 「文字通りの情けをください!」  ぶつぶつと文句を言う北見と、縋るように片づけるはずだったペンギンくん二号を抱き抱える西村。西村の場合、氷を削った名残が暑さで滴り、ズボンが濡れているけれど大丈夫なんだろうか。東野は南雲にやったことの重大さをわかっているからか苦笑しているが、これから襲来するだろう高井先生のことを思ってかその笑みは若干ひきつっている。  うだうだとしていた同期たちだったが、結局は見つかって怒られるだろうことを見越してか、それとも手元の氷の溶け具合を見てか、理由は定かではないものの腹のくくり具合は潔かった。 「北高野球部の鉄則!その七!食べ物は常に感謝の気持ちを持って食べるべし!極力残すべからず!」  三年間で身に染み着いた部内の教訓。声を揃えるや否や、四人して手元のかき氷を口の中にかきこんだ。しかし、案の定というか、すぐに揃って額を抑えて空を仰ぐ。キーンと痛む頭。そうだった、かき氷ってやつは涼しくしてくれる代わりに時折こういったしっぺ返しをするのだから恐ろしい。 「あーー」  乾いた声を上げる。見上げた広い広い空は雲一つ無くて、馬鹿みたいに青かった。ああ、誰かがブルーハワイのシロップをぶちまけたって言ってたっけ。それのせいかもしれない。  きっと自分たちの目指す高みはあの空の向こうにあった。南雲が目指したのも、そこだった。けれど段差は思ってたよりも高くて、全力を出しきっても越えられなくて。それでもこうして夏は平等にやってくる。全国のテレビの中で輝き続ける勝者にも、ローカルテレビで一瞬で舞台を降りた自分たちにも。  校庭から聞こえる次世代たちの声。  昨日まで共に戦っていたその声が、頼もしくて、同時に心底羨ましい。  それはきっと、南雲だけじゃなくて、屋上止まりのここにいる全員が同じだった。逃げ場のない屋上で、掴む雲ひとつないそこで、南雲はただ、思いの丈を、やってきた夏にぶつける。  ――そういえば南雲はさあ、今年の夏はどこに行きたい? 「…甲子園」  手に持ったプラスチックのお椀から、水滴がぽつりと落ちた。  ああ、さらば、俺の。 「甲子園、行きたかったなあ」
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