3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「いや、これ以上スピード出したら、スピード違反になるし…」
「そっか!じゃあ、あのバイクの人は、スピード違反で死んじゃったのかな?」
死んじゃった?
「でもね、死んじゃったのに、何でまだ走ってるのかな?バイクが好きだから?でも、何で追い越すのかなの?何で?ゆう君」
知るわけねーだろ!
口から飛び出しそうになった乱暴な言葉を、僕はなんとか飲み込んだ。
「さあ、何でだろうね…」
「そっか……ゆう君にも、分からないことって、あるんだ…」
彼女の初めて聞く落胆の声は、僕の心に火をつけた。
「そんな事ないよ!えっとね…」
俺は考えた。そういえば、峠の道で走り屋のレースが問題になっていたような。事故も多発して、死人まで出たとニュースで見た気がする。この辺のことだったかは、分からないけど。
「多分、愛ちゃんが見たバイクの人は、まだレースをしてるつもりなんだよ」
「レース?」
「そう。十年位前、この辺で、暴走集団がバイクレースをよく行っていたらしい」
俺は、それっぽい事を、適当に説明した。
「バイクレース?いいの?そんなことしても」
「良くないよ。現に、あのトンネル内で亡くなっている人もいる」
「まあ!」
「レースの勝敗が着かないまま亡くなったんじゃないかな?だから彼は、あのトンネルを走る車やバイクを追い掛けて、追い越して、まだレースをしているんだと思うよ」
「そっかぁ。あの人は、トンネルの中だけで、競争してるんだね!」
トンネルの中だけ?
「追い越した後、少し走ったらね、消えちゃったの。何でかなーて、不思議だったのー」
「そ……そう…」
「さすがゆう君!何でも分かるんだね!」
彼女は、霊が見えるとか言う少し痛い子だった。だけど、僕の適当な説明で納得して、極上の笑顔を僕に返してくれた。
痛い子でもなんでもいい。僕を頼って、僕に笑顔を返してくれる。それだけで、十分素敵な彼女だ。
最初のコメントを投稿しよう!