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夏。うだるように暑い。
強烈な熱を発するアスファルトの上を歩いていると、気がおかしくなってしまいそうだ。
いけない、このままじゃ倒れてしまう。
ハッと気を取り戻した彼女は、どこか休憩できる場所を探し始めた。
彼女の名前は上原 ミカ。
大学を卒業して一年目。社会人になってから初めての夏だ。
ちゃんと休みが取れなきゃイヤ、と彼女は土日祝日が休みの職場を選んだ。
そして、今日は待ちに待った休日。
本屋さんで今まで欲しかった本を一気買いした帰り道での事だった。
自分の欲しいものを自分で稼いだお金で好きなだけ買える。その優越感に心地よささえ感じていた。
だが、そんな気持ちもこの連日続く猛暑に吹き飛ばされてしまった。
もうどこでもいいから早く休みたいーーー・・・
そんな彼女の視界にふっと鮮やかな緑が飛び込んできた。
それは涼しさを求めている彼女にとっては、とても魅力的に見えた。
鮮やかな緑にばかり目がいってしまったが、それはよく見ると蔦のようだった。
蔦といえば昔、蔦の横に伸びていたつるに掴まって壁をよじ登っていたら近所の人に見つかって、学校でこっぴどく注意された事を思い出した。
スリリングな学校の帰り道での楽しみを奪われた直後は、心にポッカリと小さな穴が空いたような虚無感があった。
どうして、大人は子どもと楽しみばかりを奪うのか。
まだ幼かった自分はそんな事ばかり考えていた気がする。
そんな昔の思い出が脳裏にかすみながら、目の前の建物をじ、と見てみる。
古ぼけた木製の建物にびっしりと蔦が覆っている。
しかし、ただ無造作に生えているのではなく、しっかりと手入れがされているようだった。
蔦の生え方に人の意思が感じとれたようだったからだ。
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