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サオリは、定演のブルーレイだけじゃなくて、公開練習や依頼演奏のときのものも貸してくれた。
このあたりは郁人も出てたから、って家にいたお兄さんが一緒に渡してくれたらしい。
フルートはだいたい前列とか前から2列目あたりにいるから、映ってる可能性は高い。
お兄さんにもお礼を伝えてね、と何度も念をおしてから、わたしは大急ぎで家に帰った。
部屋に駆け込むなり、荷物とフルートを下ろしてディスクをプレーヤーに入れる。
知ってはいたし、実際に聴きに行ったこともあるけど、やっぱり強豪校の演奏は何度聴いてもすごい。
人数は多いのにアインザッツ(出だし)が揃っているし、なにより一人ひとりがみんな上手い。
勉強になるなぁ、とつい思ってしまって、苦笑する。
わたしは、もう吹奏楽をやってないのに。
わたしの代は、高校でも続けてる子が多くて、コンクールで会ったよ、なんて話をよく聞く。
それを少し羨ましいなと思わなくもなかったけど、別に、会うだけならコンクールじゃなくてもいいし、っていつも思っていた。
本当は、高校でも続けるかどうか迷ってはいたんだ。
でも、自分が上手くないのはわかってしまっていたし、中学の吹奏楽漬けの生活には少し疲れてしまっていたから……。
そんなことを考えているあいだにも、曲は流れて、今よりも少し幼さの残る郁人さんの姿が映った。
ソロだ。
美しく響くフルートの高音。
ぞくり、と鳥肌がたつ。
正確で、柔らかくて、のびがあって。
まるでうたうように。
きちんと聴く郁人さんの音は、やっぱりとてもきれいで、わたしなんかには到底追いつけないレベルで、比べるのすらおこがましいくらいで、すごい人だったんだなと改めて思う。
でも、どうしてだろう。
上手い人は他にも沢山いるのに。
普段ならすごいなぁ、って感嘆して終わりなのに。
わたしは、何度も何度も繰り返し、郁人さんの音を聴いていた。
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