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「え? あ、ありがとうございます」
どうしよう、嬉しい。
手が震えそうになるのをなんとか堪えて、フルートを返す。
「吹奏楽は時間と金使うから、俺は家の事情で辞めちまったけど、辞めて終わりってわけじゃねえ。吹きたきゃいくらだって吹ける。だろ?」
フルート用の楽譜はたくさん売られているし、誰かと合わせたければ郁人さんが所属しているサークルのようにアンサンブルだってある。
「はい」
「もし、おまえがもっとましな演奏できるようになったら、一緒に二重奏吹いてやってもいいぜ。だから中一の定演ん時くらい楽しそうに吹けよ」
「え?」
中一の定演?
一年生だけで簡単な曲を演奏したのは覚えてる。
すごい下手だった。
だけど、そうだ。
下手だけど、一年生だけで演奏するっていうのがなんだか特別な感じがして、楽しかったんだ。
――でも、なんでそれを郁人さんが知ってるの?
「カズ先輩に誘われて聴きに行ったんだよ。妹のサオリちゃんが出るってさ」
そういうことか。
あの演奏を聴かれてたのかと思うと、死ぬほど恥ずかしい。
それに、郁人さんと二重奏なんて、わたしどれだけ練習すればいいんだろう。
さすがにもうあの頃とは違う。
今のレベルのままじゃあ、楽しめない。
「わかりました。わたし、がんばります。だから、約束ですよ」
不安だらけだけど、どうせ練習するなら、目標があったほうがいい。
高すぎる目標にはなかなか届かないかもしれないけど、期限は決められてないんだから。
「いいぜ。俺はなんでも吹いてやるから、やりたい曲決めとけよ」
「はい!」
不機嫌そうに言う郁人さんの言葉に、わたしは笑顔でうなずいた。
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