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制服のポケットからスマホを取り出して時間を確認すると、約束の時間にはまだ少し早かった。
誰か、同じ電車で来た人いたりしないかな。
中学のとき同じ部活で同じ学年だった子たちと、待ち合わせをしている。
地下鉄の出口を出たところで立ち止まって、振り返ってみたけど、知り合いの姿は見当たらない。
もう集まってるのか、一本あとの電車なのか。
ちょうどブルルと通知があって、スマホを確認していると、どん、という衝撃にみまわれる。
「そんなとこに突っ立ってんなよ、邪魔だ」
頭上から低い声が降ってきた。
「ごめんなさい」
数歩、後ろによろめいたわたしは、肩から下げた荷物を抱きかかえるようにして、脇によける。
見上げると、黒いシャツを着た大学生くらいの若い男の人が、不機嫌そうな顔でわたしを睨んでいた。
わたしより頭ひとつ分は高い身長。
こちらを非難する鋭い眼光にたじろいでしまう。
とっさに謝ったわたしを見下ろして、その人はチッと舌打ちすると、すたすたと去ってゆく。
確かに、出入り口近くで立ち止まってたわたしが悪い。
でも、舌打ちまですることないじゃない。
少しむっとしながら後ろ姿を見ていると、その人がネイビーのハードケースを持っていることに気づいた。
え、フルート?
一瞬、横長なその形からフルートのケースかと思ったけど、でもまさかね、と浮かんだ考えを打ち消す。
きっと、これから自分が行くのが後輩の定期演奏会だから、そう見えただけなんだ。
もしたとえそれが本当にフルートケースだったとしても、フルートなんてメジャーな楽器だし、マイ楽器持ってる人も多いし――。
まさか、わたしたちとは関係ないよね?
わたしは肩から下げたフルートケースカバーを抱きしめたまま、その背中が離れていくのを見送っていた。
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