出会ってしまったから

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「わっ、わかってんだよ、そんなことはっ!」 無防備な表情は一瞬で、すぐに不機嫌な顔に戻った彼が、ずんずんとこちらに戻ってくる。 すれ違うとき、ちっ、と舌打ちをするのが聞こえた。 なによ、せっかく教えてあげたのに。 赤信号が青に変わるのを、ふたりして待つ。 と、少し前に立つその人の耳がほんのり赤く染まっていることに気がついて、わたしは本人にバレないように小さく笑った。 さっきの舌打ちは、不機嫌なんじゃなくて、照れ隠しなのかもしれない。 たぶんこの人、方向音痴だ。 気づいてしまうと、さっきまでの態度もなんだか許せてしまうような気がした。 信号を無事渡り終わったあとも、彼は何故か違う方へ行こうとするから、結局わたしが少し前を歩くことにした。 公園に近づくと、楽器の音が聞こえてくる。 今日は後輩の定期演奏会。 それと、定年退職する顧問への感謝イベント。 現役の子だけじゃなくて、部のOB、OG、それに先生が他の学校にいたころの教え子たちも集まって、先生の好きな曲を演奏してプレゼントすることになってる。 その為のちょっとしたリハというか打ち合わせが、公園であるんだ。 わたしたちふたりは、集合時間ぎりぎりで、なんとか公園に到着した。
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