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「カナ、沢崎さんと知り合いだったの?」
「沢崎さん?」
サオリに訊かれて、誰のこと? と首をひねるけど、このタイミング訊かれるってことはおそらく郁人さんのことだろうな。
くだんの郁人さんはフルートを片付けるなり、知り合いらしい集団に呑み込まれて既にどこかへ行ってしまっている。
リハは、定演開始の1時間前に、曲目、パート、全体の流れなんかを確認し終えて一旦解散になった。
定演は普通に観客席で聴いて、終わるのとほぼ同時に演奏が開始できるようにする。
現役の子たちには、部長からパートリーダーを通じて既に連絡済みらしい。
「え? カナ知り合いじゃないの?」
「全く。たまたま地下鉄出たところで遭遇して、あと車に轢かれそうになったところ助けてもらったくらい」
「え、轢かれそうに……って、カナなにやってんの?」
サオリが呆れたって顔でわたしを見る。
「それより、サオリはその、沢崎さんのこと知ってるの?」
「うちの高校の吹部だったみたい。途中で辞めたらしいけど、ソロも吹いてたって。先生とは、三中にいた時期が被ってるんじゃない?」
サオリが進学した高校は、吹奏楽の強豪校。
そこでソロを吹かせてもらえるなんて、すごいことだ。
三中も、県大会の常連だし。
わたしは郁人さんの音を思い出して、嘆息した。
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