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「ガスしめた?」
居間の鍵を閉めた一之瀬さんは台所に移動。
小窓をガチャガチャ揺すり自分でガスの元栓を見た。
「免許証オッケー!
カメラオッケー!お金オッケー!」
「お前は免許証いらんだろ」
「あ、一応頭痛薬」
「ゴムは?」
「はぁ?」
「あ、しないでする?俺はウェルカーム」
バカなこと言ってる人はほっといて。
「長期不在届けと印鑑と」
「や、でもまだダメだな」
「ねぇプラザホテルの宿泊券は本社?」
「吉村課長に殺される、お前が産休とか」
まだ言ってる。
「一之瀬さんゴミ持って」
「へーい」
玄関にスタンバイしてるのは、かつて一之瀬さんに買ってもらったキャスキッドソンのボストンバッグと、一之瀬さんが泊まりの仕事の時に使ってたポーターのボストンバッグ。
キャンパス地のトートバッグにはオヤツに飲み物、ウエットティッシュにビニール袋、買って怒られた酔い止め。
「こんな仕事してて誰が酔うんだ誰が」って冷たく。
だって子供の頃から旅行=酔い止めって刷り込まれてるんだもん。
金比羅山に登るために買ったスニーカーを履いて、一之瀬さんはゴミと荷物も持った。
「あ、一之瀬さん待って」
「忘れ物?」
目を閉じて口を尖らすと
フンって鼻で笑い
「口あけろ」
へ?
んーーーー!
そこまで求めてなかった!
行って来ますのチュッレベルでよかったの!
なんか生ゴミ臭いし!
「さ、行くか」
気が済んだスナイパーはサッサと降りて行った。
だから鍵をかけて後を追いかけた。
まだ薄っすら明るくなった程度な空。
冬は夜明けが遅い。
だから出勤が早いとテンションの上がり方がいまいちで、なかなかスイッチが入らない。
だけど今日は違う
アパートを左に出て50メートル程の、歩道沿いにあるゴミ捨て場に一之瀬さんが歩いて行く。
「ユイ、車開いてる!」
振り向いてそう言う。
いつもゴミを捨てる時はくわえタバコで行ってたな
ってなんか急に思い出した。
入籍したあの日から禁煙は続き、だいぶ苦しまなくなった。
一之瀬さん曰く、あんな重大な日だった事が挫折出来ない原因だとか。
しばらくはアホみたいにガム噛んでたけど、ガム食べ過ぎてお腹こわし、その後は、これまたアホみたいにタバコ吸いたくなったら私の唇を奪うという暴挙に出た。
それがキスだけで済まない事もしばしば。
その間のピーの消費量といったら半端なかった。
荷物を乗せ
寒いからエンジンをかける
シートベルト
ミラーよし
「おい、どっち乗ってんだよ」
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