1953人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
ユイランドは結局開店しなかった。
「お…おはようございます…」
「おはよ」
元彼がとうとうキレてます。
「ユイ、コーヒーは?
淹れてくれるってよ」
「いる…」
だってなんかこうおセンチで盛り上がったんだもん。
昨日のプロポーズからのあの電話だよ?
あの流れは「龍子さん一緒に寝よう」ってなるでしょ?
龍子さんも嫌がらなかったし。
「楽しかった?」
聞き方がトゲットゲ。
「お…越智さんは?」
「悠二と楽しく飲んで寝ました」
「そ…そっかよかったね…」
「もぉ、越智くんいつまで怒ってんの
今日は家なんだからいいでしょ」
「浩介よ、俺だって怒りたい」
「イッチーは帰ってから
思う存分風俗ごっこやって
邪魔してごめん」
「ユイてめぇ…!」
「ごめんなさい!」
「朝ご飯お待たせしましたね~」
「朝ご飯できたって!行こう!」
「逃げんな!」
朝ご飯もそれはそれは超絶品だった。
食べている内に越智さんの機嫌も直り
「越智さん玉子焼きあげる!」
「鯖」
「どうぞどうぞ!骨取りましょうか!」
「貢いでる」
「元彼に貢ぐとは」
こうして最終日が始まった。
「いぇーい!うみたまご!」
「俺、中に入るの初めて」
「あ、悠二おっとせいいるぞ」
「水族館と言えばチンアナゴだろ
チンアナゴ見に行くぞ」
ゆっくりのんびり水族館で癒やされて、早めに帰ろうという計画の最終日。
楽しいことが目白押しだったこの五泊だけど
私は密かにうみたまごが楽しみだった。
「チンアナゴ~」
「行こう行こう」
あれは今考えると、私と一之瀬さんの初デートだったと思う。
寮に送ると言いながら、遠路はるばる福岡の水族館へ行った。
私と一之瀬さんの思い出はチンアナゴ。
棺桶の中まで持って行く予定のチンアナゴ。
「や、よく見たらゾワるんだけど」
「りゅうぴょんあっち見に行こう」
「私ウミガメみたい」
行ってしまった。
「可愛いな~…」
ガン見
「チュチュチュチュチュ…」
犬じゃないんだから
「こっち見た」
通じ合ってる
チンアナゴの抱き枕買ってあげよ
およそ23分もの間、思う存分チンアナゴの水槽を見つめ、撮影枚数は100枚。
スナイパーはやっと動いた。
「うわ~ウミガメも可愛い!」
「すげぇ可愛い…」
え、また始まった?
ほっとこう。
「あ、龍子さんいた~」
「悠二は?」
「一人の世界だから」
「イルカ見に行くわよ」
「一之瀬さーーんイルカ行くよ!」
楽しかったな
もう帰るのか
「おいてくな、あっちの水槽も見たい」
帰りたくないな
「水族館大好きじゃない、柄にもなく」
この時間がずっと続けばいいのに
「新事業、水族館作ることにする七バス」
旅行は特別な時間
「私情が過ぎますよ御曹司」
「龍子さん館長にしてやる」
「え!やるやる!」
旅行は夢の国
楽しみしてるお客様が待ってる
明日からまた
ガイドさん頑張ろう
「さ、帰るか」
最初のコメントを投稿しよう!