旅行

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ユイランドは結局開店しなかった。 「お…おはようございます…」 「おはよ」 元彼がとうとうキレてます。 「ユイ、コーヒーは?  淹れてくれるってよ」 「いる…」 だってなんかこうおセンチで盛り上がったんだもん。 昨日のプロポーズからのあの電話だよ? あの流れは「龍子さん一緒に寝よう」ってなるでしょ? 龍子さんも嫌がらなかったし。 「楽しかった?」 聞き方がトゲットゲ。 「お…越智さんは?」 「悠二と楽しく飲んで寝ました」 「そ…そっかよかったね…」 「もぉ、越智くんいつまで怒ってんの  今日は家なんだからいいでしょ」 「浩介よ、俺だって怒りたい」 「イッチーは帰ってから  思う存分風俗ごっこやって  邪魔してごめん」 「ユイてめぇ…!」 「ごめんなさい!」 「朝ご飯お待たせしましたね~」 「朝ご飯できたって!行こう!」 「逃げんな!」 朝ご飯もそれはそれは超絶品だった。 食べている内に越智さんの機嫌も直り 「越智さん玉子焼きあげる!」 「鯖」 「どうぞどうぞ!骨取りましょうか!」 「貢いでる」 「元彼に貢ぐとは」 こうして最終日が始まった。 「いぇーい!うみたまご!」 「俺、中に入るの初めて」 「あ、悠二おっとせいいるぞ」 「水族館と言えばチンアナゴだろ  チンアナゴ見に行くぞ」 ゆっくりのんびり水族館で癒やされて、早めに帰ろうという計画の最終日。 楽しいことが目白押しだったこの五泊だけど 私は密かにうみたまごが楽しみだった。 「チンアナゴ~」 「行こう行こう」 あれは今考えると、私と一之瀬さんの初デートだったと思う。 寮に送ると言いながら、遠路はるばる福岡の水族館へ行った。 私と一之瀬さんの思い出はチンアナゴ。 棺桶の中まで持って行く予定のチンアナゴ。 「や、よく見たらゾワるんだけど」 「りゅうぴょんあっち見に行こう」 「私ウミガメみたい」 行ってしまった。 「可愛いな~…」 ガン見 「チュチュチュチュチュ…」 犬じゃないんだから 「こっち見た」 通じ合ってる チンアナゴの抱き枕買ってあげよ およそ23分もの間、思う存分チンアナゴの水槽を見つめ、撮影枚数は100枚。 スナイパーはやっと動いた。 「うわ~ウミガメも可愛い!」 「すげぇ可愛い…」 え、また始まった? ほっとこう。 「あ、龍子さんいた~」 「悠二は?」 「一人の世界だから」 「イルカ見に行くわよ」 「一之瀬さーーんイルカ行くよ!」 楽しかったな もう帰るのか 「おいてくな、あっちの水槽も見たい」 帰りたくないな 「水族館大好きじゃない、柄にもなく」 この時間がずっと続けばいいのに 「新事業、水族館作ることにする七バス」 旅行は特別な時間 「私情が過ぎますよ御曹司」 「龍子さん館長にしてやる」 「え!やるやる!」 旅行は夢の国 楽しみしてるお客様が待ってる 明日からまた ガイドさん頑張ろう 「さ、帰るか」
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