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「ああーーーっも~~~~!」
その日、何度目になるか分からない叫びがグラメニア共和国の砂漠に響いた。
-----俺は相手が名門貴族の娘でも遠慮しない男なだけだ-----
自分を負かした剣士はそう言って立ち去ってしまった。
自分の強さには自信があった。相手が剣士でも負けることはない、と信じていた。
だが、その剣士は。
「貴族だろうが」「女だろうが」『遠慮しない』と言ったのだ。手加減などせず、真剣に、全力で闘ったのだ、と。
訓練で培った護身術とは覚悟が違ったのだ。
「ううう~~。ぐぬぬぬ…」
恥ずかしかった。闘いに対する覚悟の差が。
悔しかった。負けたことも、剣士の言葉が的を射たことも。
そして何よりも、再戦の申し出を受ける前に去ってしまった剣士に怒りを覚えていた。
「悩むだけ時間の無駄よ!行動あるのみ!」
その後は早かった。周囲の反対は完全無視。家を飛び出し修行の旅へ、だ。
そして現在、ここはイスリーダ帝国ではなくグラメニア共和国。
炎天の下、砂塵が舞うダラ砂漠にディアナはいた。
この砂漠に「炎斧姫」と呼ばれる強い軍人がいる、と聞いたのだ。
「ふふっ。ワクワクするじゃない!」
軍人。護身術などとは比べられない程の戦いのエキスパート。確実に自分より格上の相手なのだ。修行はこうでなくては。
それに、相手のスタイルは自分と同じく炎を纏うものだ。勝敗以上に学べることが多くある筈なのだ。
まだ見えない相手を思い浮かべ、拳を強く握り締めて
「あいつを追い越すその日まで、この拳を磨き続ける!」
力強く空を衝いた。 1章 炎天を衝く拳
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