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「ぐはっ!…はぁはぁ!ッ…もう、許して、くだ、っさいっ!お願いしますぅっ!!命だけはっ!」
「うるさい、耳障り」
バキッ!
「ごばっ!」
腹に一発重い一撃を入れると男は唾液を吐きながら倒れた。
殴ったやつは、汚いな、と思いながらその場を後にした。
時刻は深夜1時。冬の星空が広がる、2月。
「はぁー、寒い」
男は息を吐いて両手を暖めながら、上をみた。
「「きれい」」
誰かと声が重なり、男は驚きつつ、隣をみた。まさか、さっきのやつが動けて追いかけてきたのか?面倒なやつに当たっちまった、そんなことを思いながら。
しかし、そこに居たのは知らないやつだった。
なんだ、知らないやつだ。ふうっと胸を撫で下ろす。喧嘩が弱いわけではないが、ただ、面倒なことは嫌いな性分だった為、そこにいたやつが知らないやつだった事に、少し安堵する。
でも、ひとつだけ疑問があった。何故、彼はこちらを見ている?
いや、気のせいか。深夜に出歩いてるやつは自分を含めてろくなやつがいない。早めに家に帰ろう。再び歩き出そうとしたときだった。
声をかけられた。それを無視しようとしたが、出来なかった。
「空羽」
彼は僕に向かって、そう言った。そして、僕はゆっくりと、彼を見た。目があった、綺麗な澄んだ目だ。こいつは、こっちの人間じゃない。それなのに、目があったら、もう一度言いやがった。
「空羽 磨白」
今度は笑顔で言った。
「俺と恋人になってくれませんか?」
僕はそれに吸い寄せられるように、言ってしまった、答えてしまった。
「はい」
と。名前も知らない、この美しい瞳の彼に、この瞬間、恋に落ちた。
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