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空羽  磨白、高校一年生。 女みたいな顔に華奢な体つき。昔からのコンプレックスだった。  ──小学生中学年の頃、授業が終わり、五分間の短い休み時間。僕が次の時間の準備をしながら、席にボーッと座っていたときだった。突然、視界が暗くなり、不思議に思って上を向いたら、ある一人の男子生徒が僕の席の前に立っていた。そいつは、クラスで一番体格がよく背も高い、男の子らしい、男子だった。しかも、僕のことを、やたらと、にやついた顔で見てくるやつらのうちの一人でもあった。  僕はうんざりした気分で、一体何の用だ、と思っていた。すると、そいつは、僕の隣の席に座り、ニヤニヤと笑って、こう言った。 「なぁ、お前って、うちのクラスの女子の誰よりも一番可愛いよな。俺と付き合わない?」 こんなことを言いたくないが、こう言われたのはそれが初めてではなかった。それが冗談だとも知っていた。  なぜなら、僕の容姿をいじることが今、クラスで流行っていたからだ。言わば、ある種のいじめてもあった。  ……いつもなら、適当に聞き流していたであろうそれを、この日の僕はしなかった。いや、できなかったのだ。なぜならば、この時の僕はありえないほどに眠く、心地よく眠れるタイミングをどうでもいいことで潰されたからだ。そして、次の瞬間、僕の中で“適当にあしらう“と“睡眠を妨げた原因を潰す“、という天秤が、潰す、の方に傾き、ぶちっ、と、鎖が切れる音がした。 そして、僕はその男子の手をとり、極上スマイルでこう言った。 「ブッ飛ばすぞ、てめー。(つら)貸せや」 その後のことはよく覚えてないけれど、気がつくと僕に冗談で告白してきたクラスメイトは、一番後ろの窓際にあった僕の席から一番遠い教卓がある方の出入り口まで、机やら椅子やら巻き込みながら、仰向けになって倒れていた。幸いその男子はかすり傷程度ですんだのと、僕に対して日頃から侮辱していたと周りの大人が判断したことから、僕は一切のおとがめなく済んだ。 次の日そのクラスメイトは僕を見ると逃げ出し、怯えるようになった。一部始終を見ていた他のクラスメイトは綺麗に二つに別れた。僕に対して恐怖するやつ、反対に、僕に好意を抱くやつ。そんなこんなで、月日が過ぎ、いつしか、僕は「喧嘩最強の白雪姫」とその筋の人間には囁かれるようになったのだった。  ─しかし、そのせいで喧嘩を売られるのはいい加減にして欲しい。  僕の前には、5分前に喧嘩を売ってきた大柄な男10~15人が転がったり、倒れていたりした。全員意識を失っているようで誰一人動かない。まぁ、死んでもいないし、ある程度手加減したから、大丈夫だろ。  「──あぁ、疲れる。いい加減にしろよ。本当に」  うんざりとした気持ちで歩き出すと、僕のスマホから音楽が聞こえてきた。この音楽が聞こえると僕は幸せな気持ちになる。   「もしもし?僕だよ。…うん、用事は終わったから今からそっちに行くよ。じゃあ、少し待ってて。…うん、バイバイ」 そうして、僕は通話を切った。本当にすぐ近くにいたので、5分もかからず電話の相手の場所へ着いた。僕が彼に気がつくと、向こうも気づいた。手を振ってくるので、僕も手を振り返す。 そして、 「おはよう、しき」 笑顔で彼に朝の挨拶。これが〝今〟の僕の日常だ。
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