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タイスケがふざけて言うと、ドアが開く静かな音が聞こえてきた。僕は振り向かずにタイスケの顔を見ていたので、部屋の入口を見た彼の表情が一変したのに噴き出しそうになった。
「げっ!!ハギノ!!」
だが、タイスケの叫び声を聞いた途端、僕は思わず後ろを振り返っていた。
「おいおい、せっかくお前の様子を見に来てやったのに、呼び捨てで歓迎とは、なかなか酷いな」
今しがたこの部屋に入ってきた男の人は、穏やかな口調でそう言った。
この人が、「本物」の萩野さん……。
二ヶ月前、僕がまんまと騙された「偽物」の萩野さんよりも格好よく、僕と同級生に見えてしまうほどに若い風貌の男の人を、僕はまじまじと見つめた。
「ハギノ、オマエ、何しにきたんだよ!オレを逮捕しようとしても無駄だからな!オレは何も悪いことしてねーからな!」
「何を言っているんだ、松山大典くん。俺が非番の日に、個人的に君に会いに来たら駄目なのかな?」
「し、知らねーよ。勝手にすればいいだろ、第一オレが来るなって言ってもオマエは来るんだろ」
タイスケがそう言ったところで、僕と萩野さんの目が合った。無言で会釈をする。萩野さんは微笑を浮かべて会釈を仕返してくれた。
「賢そうな友達じゃないか、大典くん」
「うっせーな!オレが誰といようと関係ねーだろ。コースケは賢いんだ!悪いか?」
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