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途中から桜井も手伝ってくれて、とりあえず店内は元に戻った。
亜実花は初めて厨房に入り、洗い物をし、最後に一輪挿しにバラを戻してあげた。
その間に桜井が3人分ハーブティーを淹れておいてくれた。
「カモミールティーだよ。少しは落ち着くかな」
桜井の言葉で、またマスターは涙ぐんだ。
「アタシね、店の名前、ほとんどの人は勘違いするけど、もしかしてアタシと同じで違う世界から来ちゃった人が気付いて入って来てくれたらいいなって、そう思って変えないでいたのよ」
確かにこの世界の人には分からないが、亜実花たちには理解出来るし、懐かしいし、仲間がいる心強さも感じる。
「なのに、あんなのが来ちゃうなんて」
桜井が話し始めた。
「僕は亜実花ちゃんの店を出て、そのままこの店に来たんだ……」
桜井が来た時にはお客さんは居なかった。「皆帰ったところなのよ」とマスターはせっせと後片付けの最中だった。
桜井はカレーを注文し、食べながらさっき買ってきたチャンプを読んでいた。
片付け終わったマスターが、「読み終わったら貸してね」と言いながら一休みしていると、一人の男が入って来た。
「いらっしゃいませ」
男は黙ってボックス席に座った。
ビールを注文し、一人で静かに飲んでいた。
一本飲み終え、もう一本追加注文し、おつまみもお任せで注文した。
その時点ではマスターは喜んでいた。常連客は安いカレーしか頼まない。でもお酒だとそれなりに儲かる。おつまみもお任せなので、ちょっと値の張るものを揃えてみた。
ウキウキとビールとおつまみを男のテーブルへ運んだ。
すると少し酔いが回ってきたのか、男が喋り出した。
「これ、ワンコインなんだろ」
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