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深夜の部屋にぼんやりと人影が浮かぶ。
今年もそんな時期かと私は溜息をついた。
「で、どうして今年は来られないのだ?」
憮然とした表情をして現れた神主さんに私はもう、驚かない。
「ああ、夏が来た…」
そして、頭を抱えた。
夏が来たということは、いよいよ受験に向けてのスパートに入るということだ。
『夏を制する者は受験を制する』、『この夏、志望校合格に向けて大きくステップアップ!』―頭の中に浮かぶのは、あちこちの塾のダイレクトメールに添えられているキャッチフレーズだ。
「瑞希、どうして今年は来られないのかと聞いている。」
「受験です!高校受験!じゅ・け・ん!!」
「それは私と過ごすよりも大切なことなのか?」
「へ?別に辰爾様に会いにいってるわけじゃあありませんけど…」
あれから5年。
そして、その5年の間に分かったことは―
神主さんは実は神様で、私の前世はその神主さん改め神様の許嫁で流行病で死んでしまったということ、そしてそれがかれこれ500年くらい前の話だということだ。
ちなみに、神主さん改め神様は、雨と風をつかさどる龍神の一族で、御名を『辰爾』というとのことだ。
本人が言うことには、本来ならば天上に住まうべき高位の神らしい。
じゃあ、どれくらいの力があるのだと尋ねてみたら、『雨を降らせて川を氾濫させ、大地を削り取る程度』だそうで、『試してみるか?』と物騒なことを宣い、そんな迷惑な実力など見たくないと言ったら、すごく残念そうな顔をしていた。
ついでに、天上に住まうべき高位の神がなぜ、古い神社で神主なんぞしているのかと聞いてみたら、誰も祀ってくれないので自分で祀ることにしたという、なんともふざけた答えだった。
そしてこの神様、梅雨が明けて、夏本番となると毎年決まって私の部屋に来て、いつ来るのかと纏わりつくのだ。
そんなこと、父の都合で決まるので、私が知るわけもない。
もっと言うと、喜んで田舎に行くのは小学生までのことで、中学生ともなれば部活や塾でそんな暇はないのである。
「去年は三日しかいなかった。」
恨めしそうに言うが、仕方がない。
「今年は絶対無理。受験生には夏休みはないんです。」
「受験というのはしなければならないのか?」
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