1.再会・夏

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 初めて会ったのは、小学生の頃だったと思う。  夏休み、父の田舎で、従兄弟たちと遊んでいた。  かくれんぼだった。  古びた神社の石燈籠の陰に息を潜めていた。  その大き目の石燈籠は、私の体をすっぽりと隠し、我ながらいいポイントに隠れたと一人悦に入っていた。  そして、案の定、従兄弟たちは私を見つけられなかった。  さらに、私はほくそ笑んだ。都会育ちの女の子だって、かくれんぼくらいは出来るのだ、と。  全く暢気なことだと思う。  隠れる場所を探して歩き回って、ずいぶんと遠くまで来ていたらしい。  年に一度、夏休みに訪れるような場所だ。  どこをどう歩いてきたのか、なんて全く気にしていなかった。  とどのつまり、私は迷子になっていたのだ。  最も、間抜けなことに私は、そのことに全く気がついていなかった。  あとで知ったのだが、その神社は、従兄弟たちの家からはだいぶ離れていて、当の従兄弟たちでさえも行かないような場所だったらしい。  当然、大騒ぎになっていた。  何しろ、駐在さんまで出動させてしまったのだ。  と言っても、その駐在さんは父の幼馴染なんだけど。  そして、父からも祖父母からも大目玉を食らった。  それだけじゃあない。  その神社で私は前世恋人だった、と宣うおかしなモノに出会ってしまったのだ。  いつまでも探し出せない従兄弟たちに聊か不機嫌になりながら、さりとて自分から出て行くのも今更という、何とも言えない気持ちを持て余していると、後ろから不意に声を掛けられた。  「やっと会えた。」  振り返ると白い着物に袴姿の男の人が立っていた。  その神社の神主さんのようだった。  でも、『やっと会えた。』とは?  とっさに浮かんだのは、学校で教えてもらった不審者対策のアレである。  『いかのおすし』ーいかない、のらない、おおきなこえをだす、すぐににげる、しらせる、だ。  格好は神主さんだ。  神社に神主さんはつきものだ。  でも、『やっと会えた。』はおかしい。  だって私はその人に会ったことがない。    私は脱兎のごとく駆け出した。  知らない人とは口をきいてはいけません―だから、声一つ出さなかった。  とにかく、逃げよう―ただ、只管走った。  走って、走って、とにかく振り返ることもなく、一生懸命走った。  そして、髪を振り乱して全力疾走する私を見つけてくれたのは―  父の幼馴染である、駐在さんだった。        
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