第三話※(後半R18)

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 今の日本では考えられない話だ。 「あいつら外国人は先に商売してるオレ達に敬意を払う気が全くない。縄張りを荒した。それをこの間オレが止めさせたものだから、仕送りが出来なくて、あいつの妹が殺された」  守は息を呑んだ。 「そんな……逆恨みじゃないですか。自分がちゃんとした仕事に着かないのが悪いのに、犯人じゃなくて志野さんを襲うなんて」 「自業自得だと思うか?」  志野が守を見た。瞳は諦めの色をしている。 「オレもあいつも根っこは変わらない。生きる手立てが他にないんだ」 「志野さんも覚醒剤を売っているんですか」  声を震わせて言った。志野は答えずに眉尻を下げ、哀しそうに微笑み肯定したように見えた。  覚醒剤を始め違法な薬物を使うということは快楽と引き換えに、脳の崩壊と強烈な依存を起こすことだ。買う金欲しさに誰かを襲って傷つけ、最悪の場合には殺してしまうこともある。志野はその元凶を作っているのだ。  なんて恐ろしい人が目の前にいるのだろうと守は思った。違法な薬物絡みの悲しい事件を耳にするたびに、被害者やその家族の近しい人になった気分で、人並に心を痛めてきた。違法な薬物もそれを売り買いする人も、世の中から無くなればいいと思った時もある。社会が抹殺すべき悪の一人が志野なのだ、と思うと身体が震えてきた。  志野は血の気の失せた顔で、長いまつ毛を震わせながら守を見詰めていた。眉間に深い皺を寄せ奥歯を噛みしめ、痛みに堪えるような表情をする。守は気づいた。  志野にだって痛覚があるのだ。皮膚を裂けば痛みが走り、熱い血が流れ、肉や血管、沢山の細胞を傷つけ治癒するまでじくじくと疼く。  志野から感じるのは犯罪を生業としたやくざである汚らわしさよりも、同じ人間としての生き辛さや苦しみだった。やくざの他にも沢山の仕事があり、皆それなりに辛いことを我慢してやり過ごしながら生活している。守もそうだ。会社の営業成績が上がらず肩身の狭い思いをしても、毎日ぼんやりと過ごすうちに劣等感や卑屈を忘れようとしている。そうやって上手く受け流して生きる方法もあるはずなのに、どうして志野は苦しい道を選ぶのだろう。
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