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「ばかだな」
志野は流れ星の尾みたいに目を細めて笑った。
「守のそういうところ、嫌いじゃないよ」
守はゆっくりと志野に唇を寄せた。ぬるついた熱い粘膜を舌で撫でると苦い味がした。
「ん……」
腕の中で志野が口づけの角度を変え、鼻から息を漏らした。それだけで胸が熱くなった。
取り返しのつかない所へ進もうとしている。興奮で頭が冴えていて、気持ちが高ぶっていた。
「今なら戻れるぞ」
唇を離すと志野が言い、守は胸を衝かれた。
志野はいつも絶妙の時に痛い所をついていくる。心が読める能力でもあるのだろうか。いや、超能力など無くても予想できるだろう。やくざと付き合うのがどういうことか、やくざが一番知っているのだ。でもどうしてだろう。志野の言葉はとろりと鼓膜に流れ込んで、不安や恐れなど何も感じなかった。むしろ穏やかな気持が溢れてきた。
「戻って欲しいんですか」
志野は愛おしいくらいに上目で守を睨んだ。
「じゃあ抱けよ」
志野が言った。
この場で志野の服を脱がし滑らかな肌を撫でたくなった。本気でしてしまおうか。志野との間に流れる空気はうっとりと艶めき、乗ってしまってもいいように思えた。志野の瞳が潤み唇がたっぷりと捲れていたが、守は何とか理性を手繰り寄せる。狼狽えながらも志野の腕を外した。
「まずは怪我の治療をしなくては」
明らかにばかにしたように、志野がふんと鼻息を出した。情けないのは解っている。
「病院は駄目だ。オレの知ってる医者に連れていけ」
「もぐりの医者ですね」
顔中が熱いまま、へへへと笑うと志野が片方の眉を上げて溜息をついた。
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