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甘美な快楽に酔いはじめた彼らの脳へは、もうどんな光も届かない。
24日の夜、透が熟睡モードに入ったのを見はからい、賢吾はそっとベッドを抜け出した。
オフィスのデスクからクリスマスカードを取り出し、リビングへ向かう。
賢吾の行動は英会話スクールを訪れた時にジェイクとスティーヴから聞いた話に由来する。
英会話スクールはクリスマス当日を待たずに冬休みに入ってしまうため、最終日にサンタクロースからのプレゼントとして生徒たち宛のカードをツリーに吊しておく。
カードには生徒ひとりひとりの長所と幸運をプレゼントすることが書いてある。
それを聞いた賢吾はジェイクとスティーヴのアイディアに感動したのだ。
今、賢吾が手にしているクリスマスカードには、透の長所ではなく、今年透と経験した印象的なできごとが書いてある。
これからクリスマスを過ごすたび、カードとともに透との思い出が増えればいいと思ったのだ。
リビングの照明を点けた賢吾は、クリスマスツリーの真ん中に見慣れない赤いオーナメントボールを見つける。
近寄って見れば、クリスマスカードの模様だった。
緑の地に赤い箔押しでオーナメントボールが飛び出すようにデザインされている。
手を伸ばしかけてやめる。
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