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「滑稽だなぁ、わたし……」  なんにせよ、それが今では、ぎこちないふたりの世話まで焼いているんだから、これを滑稽と言わないで、なんて言えばいいんだろう。まるで道化役みたいで、涙も出ないや。  確かに好きだった。今でも、こんなにも胸が痛い。わたしじゃダメなんだと気づいてしまったときのあの気持ちは、半年が経っても癒えないままだ。 「おい、勘違いすんな。望みがあるとかないとかは関係ない。今言ったのは〝俺が〟応援できなかったんであって、べつに滑稽だとかなんだとかは、俺は思ったことはない」  すると、頭の上からまた淡々とした声が降ってきた。  どういうこと? と思わず顔を上げそうになるけれど、いつの間にスマホから手を離していたのか、廣田の手に軽く頭を押さえられて頭の位置を固定されてしまう。  戸惑う間もなく、五本の指先だけで押さえてくる廣田の手の感触が。  その、やけに熱い体温が。  髪の毛越しにわたしに伝わり、その瞬間、汐崎君に感じていた胸の圧迫感も、汐崎君が誰かに恋をした瞬間を見てしまったときの苦しさも、根こそぎ〝廣田〟に持っていかれた。
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