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「――ねえ、廣田(ひろた)はさあ、自分の友だちが誰かに恋をする瞬間って、見たことある?」  正確には〝友だちが〟じゃなくて〝自分の好きな人が〟だけどね。そう心の中で訂正しながら、わたしは何食わぬ様子でスマホのゲームに夢中の廣田に聞いてみた。  放課後の遅い時間、ひと気のない教室。まったりとした空気が流れるそこには、窓からの夕陽が赤々と差し込んでいた。  わたしの前の席の椅子にうしろ向きに座る廣田の頭が、その瞬間、ぴくりと動いてゆっくりと持ち上がる。ようやく顔を上げたか。このゲーマーめ。 「なんだよ、唐突だな」 「いや、うん、まあそうなんだけど。ていうのも、この前ちょっと見ちゃってさ。びっくりしたっていうか、初めて見る顔だったから、急に一線を引かれたような気持ちになっちゃって。ショック……っていうのもあるのかな。勝手に少し落ち込んじゃったんだよ」 「へー。そんなこともあるんだな。で、自分の友だちが恋に落ちる瞬間、だっけ?」 「うん。見たことある?」  けれど廣田は、適当に相づちを打つとすぐにスマホに目を落としてしまった。……少しくらい真面目に考えてくれてもいいのに。わたしの頬は反射的に膨らむ。  でも、廣田がわたしの前でゲームに興じるのはいつものことだ。だから今さら、話している最中なのにスマホから顔を上げないなんて失礼な、とは思ったりしない。
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