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どちらにしても、一度口を開いてしまったら、真っすぐに瞳を向けてくる廣田を相手に取り繕うことなんてできなかった。
隠れるようにぎゅっと机に額を押し付けると、今まで胸の中にため込んできたさまざまな色の感情を、取り留めもなく吐き出した。
わたしが汐崎君を好きだと思ったのは、笑った顔が子犬みたいでかわいいと思ったからだ。
昼休みの廊下をクラスの男子と鬼ごっこをして走り回る横顔や、本気で鬼から逃げる顔、タッチされてめちゃくちゃ悔しそうにしている顔、どれをとってもすごくかわいくて、同時にかっこよく映って。どうしようもなく胸が鳴った。
去年の中一の冬、寒くて校庭に出られない男子たちが元気を持て余して廊下を駆け回っていた頃のことだ。
そんなふうに急激に意識しはじめたものだから、それからは目が勝手に汐崎君の姿を探して、見つけると、ほかにはなにも目に入らないようになっていった。
そんなとき、ふっと気づいてしまった。知りたくなくても、好きだから。
紗菜と歩いていると、廊下の向こうから汐崎君の姿。中学二年生に進級した今年の春。
ちょうど桜の花が真っ盛りで、春にしては夏を思わせるような陽気に、廊下のお窓は全開だった。
そこに狙ったように春風にさらわれた花びらが校舎に迷い込んで。まるでワルツのようにふわりと踊って紗菜の頭に乗ったピンク色に……汐崎君の目は奪われた。
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