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砂埃が目に入り、俺は思わず動きを止めた。その刹那、カエサルの鋭い蹴りが脇腹をえぐるように直撃した。
俺は反射的に呻き声をあげそうになったが、すぐに痛みがないことを察知した。蹴られた反動を利用して、体を回転させてカエサルの延髄を右拳で殴った。
カエサルは殴られたことなど全く意に介さず、次の攻撃に転じるべく姿勢を整えた。そして、左目の端にはクラウチングスタートの構えを取るポンペイウスの姿が映った。
(二人同時に仕掛けてくるつもりだな。挟み撃ちを狙ってやがる。)
俺は心の中で相手の戦術を冷静に分析してみてはものの、生前武道の経験は皆無に等しい万年帰宅部の男は為す術もなく、門から10mほど離れた岩壁に吹き飛ばされた。
「くっ・・・。痛みも疲労もないけど、ボッコボコにやられるってのは奇妙な感覚だな。一体いつになったらこの戦いは終わるんだ・・・。」
生きていれば、どちらかが再起不能、または戦意喪失、あるいは死亡した時点で決着がつくだろうが、死後の体はそのような状況に陥ることはまずないのだ。痛み・疲労・体力の衰弱がないのだから、再起不能・死亡はありえない。
そして、戦意喪失というのは、勝てる見込みが微塵のかけらもないほどに消え失せてしまった時に陥る心理状態なのだが、痛み・疲労がない以上永遠に戦い続けられる、すなわち天文学的確率のごとき一縷の望みを確実に持ちうることで、そのような心理状態にはなり得ない。
このような瞑想に俺が耽っている間に、カエサルとポンペイウスは視界から忽然と姿を消してしまっていた。
「ん、一体どこに・・・・うあっ!」
突然、何者かに両足首を掴まれ身動きが取れなくなった。
「ユダン、タイテキ・・・アカゴナイテモフタトルナ。」
地中からポンペイウスの声が聞こえてきた。土が口の中に入るのか、もごもご言っていてうまく聞き取ることはできなかった。
「コレデ・・・・オワリーダーヨ!!」
眼前には思わず息を呑む光景が広がっていた。
霧のような、オーロラのような青白い体をした神々しさすら感じられる白虎にまたがったカエサルが上空から襲いかかってきたのである。
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