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死後の世界は奥が深い。俺の想像を絶する事態の連続だ。上半身裸に腰みのという犯罪すれすれの格好をした文豪、天国の門番をする古代ローマの偉人、そして極めつきは『精霊』という表現がしっくりくる未知の存在。俺はもう死ぬはずはないと自覚しているのだが、やはり死を予感した。それほどの恐怖を感じたのだ。
「おいおい・・・こんなのを相手に一体どうしたらいいんだよ。」
俺は一歩ずつ後ずさりをして距離を取る。
「ワガセイレイ、『雷鳴』カラハニゲラレナイゾ。」
カエサルは今確かに『精霊』という言葉を口にした。俺の予想は当たっていたのだ。
『雷鳴』という名をした白虎のような精霊の体が雷のようなまばゆい光に包まれていく。俺はいよいよ本格的に身の危険を感じ、藁にもすがる思いで遠くから戦況を見届けている漱石さんに助言を求めた。
すると彼はこの状況を楽しんでいるかのような軽快な足取りで俺の方に近付いてきた。
苛立ちを隠しながら俺は、
「なあ、漱石さん。あの精霊に対抗する手段は今の俺にあるのか。」と、尋ねた。
漱石さんは意味ありげな笑みを浮かべながらこう答えた。
「ほほぅ、今の俺に、という表現は的を射ておるぞい。単刀直入に言うと、今のお前さんにはあの精霊に打ち勝つことはほぼ不可能じゃ。ほぼ、な。」
「ほぼ、と言うと・・・何か方法はあるんだな?」
「ああ・・・1つだけある。」
「その方法を教えてもらえますか。」
「ああ、教えようぞ・・・。わしはそのためにここにいるのだからな。」
その一言で、それまで俺の心の中の曇天に一筋の光明が差した気がした、その瞬間ーー
空が光った。俺の周りの大気に突然電撃が走り、視界が真っ白になった。
カエサルの精霊『雷鳴』の一撃が、俺と、隣にいた漱石さんに炸裂したのである。
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