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勢いよくカエサル目掛けて放たれた俺の渾身の一撃は、ものの見事に空を切った。
俺の腕は伸びなかったのである。想像が、創造されなかった瞬間をこの目で見たのである。
「え、なんでだよ・・・。」
「アタリマエダノ・・・」ポンペイウスが『雷鳴』に跨り襲いかかってくる。
「クラッカー!!」
カエサルとポンペイウスのコンビネーション攻撃が絶望に打ちひしがれている俺に直撃した。泣きっ面に蜂とは今この時こそふさわしい諺なのであろうな。
「うぅ・・・・。なぁ、漱石さん。俺のイマジネイチョンが足りなかったのかな・・。」
肉体ではなく精神にダメージを負ってしまった俺は問いかけた。
「いやいやそうではないわい。ただのぅ・・・、ぶふっ、腕を伸ばすなんて無理に決まっておろう。イマジネイチョンは想像を創造するのであって、肉体改造は無理だわい。」
完全に俺のことを鼻で笑う態度にブチ切れそうになるのを堪えつつ、俺は次なる手を実践することにした。
俺は2人から少々距離をとり、頭の中のイメージの輪郭を徐々に鮮明なものへと昇華させていく。それまで霧の中のようにぼやけていた憧れのヒーローは、自信を失いかけている拙い想像力を身にまとい、再びこの現実に姿を現そうとしていた。
俺はベルトのバックルを右手で掴み、左腕を斜め上にまっすぐ伸ばし、カエサルとポンペイウスを若干の上目遣いで見据えた。首には風にたなびくスカーフ、上着はライダースジャケット、靴はブーツだ。
「変・・・・・・」そう言いながら、俺は伸ばした左腕を反時計回りに旋回させながら腰の位置まで下ろし、左手でバックルを掴んだ。
俺の脳内のイメージは最高潮に達した。(これなら勝てる!)と確信するほどだ。
「・・・・身!!」瞬間、俺は右手を勢いよく斜め上に伸ばした。
「ハァッ!!」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・俺は変身できなかった。なぜだ・・・・。
絶望という名の鉄槌を脳天に振り落とされた俺に、漱石さんは冷めた口調で声をかけた。
「いや、さすがにそれはないでしょ。変身・・・・はないでしょ。」
「サスガニナイヨ」「ナイナイ。」
古代ローマの英雄2人も呆れ顔である。
穴があったら入りたいとはこういうことを言うのだろうな。
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