第6章 「勝利の形」

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「何をしておるっ!!さっさと避けんかっ、ばかものぉっ!!」  漱石さんは俺に向かって何か言葉のようなものを発していることは、口の動きを見れば把握できるのだが、俺の体は動くことを完全に拒絶していた。変身できなかったことへの失望が全身の神経を麻痺させてしまったのだ。  目の前が光った。『雷鳴』の攻撃だ。しかし、避けることなどできない。その気力がもう残っていない。 「・・・じゃよ!・・・前の・・・・ネイチョンを信じろ・・・!」  漱石さんの声は遠くから聞こえてくるようで、まるで幻聴のような響きだ。  雷を身に纏ったカエサルとポンペイウスが俺に突進してくる。ポンペイウスの右手には三叉槍、カエサルの左手には電撃を帯びた剣が握られている。敗北を決定づける一撃を、俺はただただ受け入れることしかできないのだと、半ば諦めかけていた。  しかし、俺の中の心の声がこう囁くのだ。 「・・・・don't think, image.」    無意識下での行動だったのだろう。会心の一撃を繰り出すカエサルとポンペイウスを前に、俺は両手を広げ、2人を押し返すような構えをとった。『衝撃波で吹き飛ばす』ことを咄嗟に想像した。無論、勝算などなかった。悪足掻きもいいところだと心の中で自らの行動をあざ笑っていた。  肉体が滅び、魂だけの存在になったとしても、やはり未来を見ることだけはできなかった。時間の流れ、それは生死を問わず、永遠不変の真理であるということが身に沁みてわかった。  3秒後、俺は古代ローマの英雄を衝撃波で吹き飛ばし、勝利したのだった。 「これが・・・」 「イマジネイチョンじゃよ!!」決め台詞を漱石さんがさらっていった。
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