第2章 「魂の在処」

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第2章 「魂の在処」

 何も見えない空間が広がっていて、前後左右の概念などそこにはなく、果たして自分が存在しているのかどうかすら分からない。無限に近い時間が流れ、これまでの人生の全てをたやすく振り返ることのできるほどの長い時間をかけ、俺は虚空をさまよっていたのだろうか。  しかしながら、このような感覚を抱いているということこそが、魂が消滅していないことの何よりの証拠になるのではないか。とすると、やはり俺の魂は天国へと向う途中だということか。    しばらくすると、と言ってもこの空間には時間という概念が存在しないのだから、しばらくという表現すら誤りなのかもしれない。しかし、どうしても言葉で表現しないことには事が進まないので、『しばらく』という言葉の存在を許可することにしよう。  しばらくすると、景色が突然の変化を迎えた。天地がひっくり返るほどの変化が眼前を突如覆ってきたのだ。それまで全くの虚空、無色の世界だった景色に、赤いインクが一滴ぽたりと落とされた。その瞬間、世界には赤、そして赤から派生する無数のグラデーションが拡がった。その次に、緑のインクだ。緑のそれは、インクというよりも墨汁に近かったかもしれない。緑とそのグラデーションだけではなく、赤と緑が掛け合わさった色彩も同時に世界を埋め尽くしていった。最後は、青のインクのシャワーだ。世界が完全なる色彩を取り戻したのだ。  そして、最後に白が生まれた。3原色の織りなす三重点、それが白だ。そういえば俺は白が大好きだった。きれいだからではなく、何色にも染まることのできる柔軟性が好きだったのだ。  白が生まれて初めて、世界に黒が誕生する。黒はありとあらゆる色彩を飲み込み、自分と同じ色に染め上げていく。  世界が廻る。途方もなく廻ってゆく。  ああ、これがブラックホールか。光も何もかも届かない重力場の塊。  決して逆らうことのできない絶対的な引力。  いよいよ俺も消えるのか・・・・俺の魂よ、お前は一体どこへゆく・・・・。
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