第1章

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「もう出ていってもらわないとウチとしても困るんですけどねえ」  そんなことを大家さんがおっしゃる。  口調も丁寧だし、一応は、申し訳ないんですが、という態度を示してはいるものの、あきらかにイラついているのがわかる。 「とおっしゃいますが、何しろここを出ていっても行くところがありませんし……」  借り手としては懇願するように言葉を返すしかない。なにしろ居住権などというものを持ち出しても通じそうもない相手なのだから。 「引き続きお住みになるなら、事前に契約を更新してくれさえすればよかったんですがねえ。次に借りてくれる方も決まってしまっていて、もうそちらに向かっている頃だと思うんですが……」と大家さんは嫌味たっぷりに言う。 「はあ、そのことは存じています。なしにしろ数日前から無数の円盤が地球の空を……」  借り手の話を最後まで聞くことなく、大家さんからの通信が途切れた。  借り手の一人であるアメリカ大統領は、暫く通信マイクの前で考え事をするようにじっとしていた。やがてゆっくりと振り向き、後ろでやり取りを聞いていた会議の参加者に、「さて、どうしますかな」という風に顔を向ける。 「そもそも、こうなったのは誰の責任なんですかね?」とフランスの大統領は早口でまくしたてる。 「どうして契約を延長しておかなかったんだ。国連の責任が大きいんじゃないか!」とロシアの大統領は机を叩き、ウォッカ焼けした顔から湯気をたてる。 「いや、国連はこのことを知らなかったはずです。まだできたばかりですし……」とアメリカ大統領が冷静沈着にさとす。 「このことって?」とロシア。 「ですから、われわれ人類がこの地球という星を、宇宙全体を所有する大家さんから借りているということですよ」とアメリカ。 「大家って具体的にはだれよ?」とフランス。 「う~ん、それはわからない。宇宙の創造主なのか、あるいは人間より先に文明を発達させた生物たちなのか……。とにかに遥か昔からあらゆる星の所有権を持っていたらしい」とアメリカ。  地球を大家さんから借りていることは、その時々の地球を支配するような強い国の元首たちだけが知るトップシークレットだった。
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