夜の校舎

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夜の校舎

 部活の帰りに、明日必要な物を教室に忘れていることに気がついた。  先生の許可を得て、戸締り寸前だった校舎の中に戻り、三階にある教室へ駆け込んだ。  階段を上り切ってすぐ右にあるのが私のクラスで、暗いなりに見慣れているため、自分の席まで迷いなく進む。すぐ忘れ物を鞄に詰め、さあ戻ろうと廊下に出た時、階段向こうの教室総てに明かりが灯ってることに気がついた。  何か行事のある時期でもないのに、こんな時間にどうして総ての教室の明かりが灯っているのだろう。  何か理由があって居残っている人がいるけれど、上って来た時は自分の教室に向かうことしか考えていなかったから、明かりがついていることに気がつかなかったのだろうか。でも、校舎に入る際、先生は戸締りをするからすぐに戻りなさいと言っていた。  一クラスくらいならば消し忘れということも考えられるが、自分のクラス以外、全部の教室に明かりが灯っているなんて不自然すぎる。  いったいどうして向う側の教室全部に明かりがついているのか。  ひたすらそれを不思議がっていたら、一番向こうの教室がふいに暗くなった。  誰かいて、今明りを消したらしい。でも教室から人影が出てくる様子がない。  向こう側にも階段はあるから、ふいに暗くなったせいで視界が効かなくて、出て来た人が階段に向かうのを見逃したのだろうか。だけどそれにしては、こんなに静かなのに微かな足音すら聞こえない。  誰かいるのかいないのか。それだけを気にして廊下の向こうを見据えていたら、奥から二つ目の教室が暗くなった。  人がいる。その人が明りを消している。でも誰も廊下にはいない。足音も聞こえない。  …そう。足音は聞こえなかった。けれど違う音が微かに聞こえた。  耳を澄ませてもそれが何の音なのかよく判らない。水音のように聞こえる瞬間もあるし、金属がこすれ合う音に聞こえたりもする。他にも、車が走り抜ける音みたいだったり、壁か何かを叩いているような音に聞こえもする。  ただ一つはっきりしているのは、その音が少しずつ大きくなっているということだった。  三つ目の教室の明りが消えると同時に音が大きさ増す。この時にはもう、音が大きくになる理由が、教室の明りが消えると同時にこちらに近づいてくるせいだと判っていた。  早くこの場を立ち去らなければ。そう思うのに足が動かない。そして廊下に向けた視線も逸らせない。
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