夜の校舎

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 今までの間隔からして、もうじき最後の教室の明りが消える。辺りは闇に包まれる。そうしたらあの音は。動けずにいる私は。  もがいても足が動かない。声を出すことすらできない。ただ絶望だけが込み上げてくる私の耳に、迫ってくるのとは別の音…階下からの声が響いた。 「おーい! ◯×! まだかー? もう扉締めちまうぞー!」  先生の声を聞いた瞬間、あんなにガチガチになっていた足の強張りが解けた。  転びそうになりながら階段を駆け下り、一階の通用区口へ向かった私は、そこに立っていた先生の顔を見るなりへたり込んで泣き出してしまった。  慌てた先生があれこれ聞いてくるが、上手く言葉にできない。それでも必死に気持ちを落ち着け、私は、三階の教室の明りが自分のクラス以外ついていたことと、それが奥から一つずつ消えていったことを先生に話した。  居残っている者は誰もいないし、戸締りで見回った時、明かりはついていなかったと先生は言った。でも私の様子がおかしかったから気にしてくれて、もう一度確認に行くと言い出したから、私は勇気を振り絞って一緒に行くと言い張った。  怖さはあったけれど、一人でなければ大丈夫だという気持ちと、自分の目できちんと確認したい気持ちがあったからだ。  怯えながらも退かない私のために先生が階段の電灯をつけてくれたので、少し怖さが和らいだ。  二人で三階まで上り、暗い教室を一つ一つ確認する。誰もいないしおかしなことも起きてない。それに安心し、先生と一緒に一階へ戻って戸締りをした瞬間、ふいに校舎中の明りがついた。  それは僅か数秒の出来事だった。  しばらく呆然と立ち尽くしていたが、我に返って先生を窺うと、私以上に先生は驚いた顔をしていた。でもすぐにこちらを向いて、静かな声で私に帰りなさいと言った。 「先生。あの…途中まででいいですから、一緒に帰ってもらっていもいいですか」  反射でそう言葉が出たのは、自分が怖いからもあったが、なんとなくそう言わなければならない気がしたからだ。  もし一人で帰ったら、先生はまた校舎に見回りに戻るだろう。  なぜ、そうさせてはいけない気がして、私は先生の袖を引いた。  校舎の中を気にしてためらっているようだったが、私が怯えていることは事実だったから、先生は私の訴えを聞き、結局家まで私を送ってくれた。
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