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第10話 双子の母。
朝、優多が目覚めると、既に尊の姿は無くテーブルの上にはメモが置かれており、優多はそれに目を通した。
【早朝会議に出席しなければならなくなった。先に出る。朝食の支度はしてあるから、食べてから学校に行けよ。】
優多はメモを読み終えると目を瞑って一呼吸置いた。
それから椅子に座り朝食を取り始めた。
放課後、優多は校門に向かう途中雅の居る教室に立ち寄り彼女に声を掛けた。
「雅、一緒に帰るか?」
「今日は雅楽が仕事だから、茜(あかね)ちゃんと2人でお出掛けするの。校門まで一緒に行こ!」
「ああ。」
2人は歩きながら会話を交わした。
「お前達のお母さんが迎えに来るなんて、珍しいな。俺まだ会った事無いよな?」
「茜ちゃん忙しい人だからね~。」
双子の母親である茜は、大手芸能事務所の代表であり、特にモデル事業に力を入れており、兄の雅楽はそこでモデルを務めている。
父親は世界的に有名な映画監督であり、海外で仕事をしている事が多いらしい。
「あっ。茜ちゃんに会っても、絶対におばさんとかお母さんって呼ばないでね。そう呼ばれると自分が老け込んだ気がするんだって。茜さんって呼んであげて。」
「お前のお母さん、可愛らしい人だな。」
「だ~か~ら~。茜さんだってば!」
「はい。はい。」優多は笑いながら頷いた。
2人が校門に着くと、茜は既に到着しており、雅が来るのを待っていた。
「茜ちゃ~ん。お待たせ!」
茜が雅に気付き、手を振りながら、娘の隣に立っている少年に目を向けた。
優多は、茜が真っ直ぐ自分の方に向かって歩いて来るのを目にして、挨拶を交わそうとした。
しかし彼女は無言のまま、提げていたバッグから名刺を取り出し優多の手に握らせ、いきなり優多を抱きしめながら身体のラインを入念に撫でた。
「うん。背はこれからもっと伸びそうだから問題ないわ。今の身長でも需要は充分に有るしね。もう少し筋肉を鍛えればパーフェクトだわ。ねえ、貴方うちの事務所に入りなさいよ。私がトップモデルに育ててあげる。」
茜の予期せぬ突飛な行動と言動に、優多は唖然とした。
「茜ちゃん!娘に恥を欠かせないでよ!」
「何が恥よ?雅こそ、こんな逸材が居るなら、もっと早くに紹介してよ。」
優多は自分をそっちのけで、言い合いをしている親子を眺めながら、雅楽と雅が誰に似たのか分かった気がした。。
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