第16話 綱渡り。

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第16話 綱渡り。

尊は早朝会議に出席した後も、処理しなければならない案件が多く一日中仕事に追われていた。 壬生家に帰宅した時には、既に日付けが変わっていた。 自室に入り、疲れた足を引きずりながらベッドに横たわった。 上着のポケットに入っている携帯電話を取り出し、じっと見つめた。 愛しい人の声が聞きたくて、優多に電話を掛けようとしたが、暫く迷った後に携帯電話をベッドサイドテーブルの上に置き、目を閉じた。 身体は疲労困憊していたが、眠気が襲って来てはくれなかった。。 尊はこの数日の内に、優多との間に起こった出来事について考えていた。 一緒に暮らしてから2年近くになるが、2人が離れて暮らすのは今回が初めてで、彼が傍に居ない二週間を想像するだけで胸が苦しくなった。 しかし、今目の前に優多が現れたなら、彼の自分に対する想いに確信が持てないまま、自身の欲望に負けて彼に触れてしまうに違いなかった。 2年前。。 優多は俺を家族の様に大切だと。 俺の事を本当の兄貴みたいだと言った。。 だから俺は自分の想いをひた隠しにして来た。 だが。。 優多は俺のキスを受け入れてくれた。 彼の俺に対する想いが変わったのか? それとも俺の思い違いなのか? 彼が未だに俺を兄として慕ってくれているなら、自分の欲で優多を強引に手に入れようとすれば、彼は再び傍に寄り添う家族を失う事になってしまう。。 尊は、優多の兄である雛多(ひなた)との約束を忘れてはいなかった。 優多の兄として傍に居なければ。 という想いと 自分の人になって欲しい。 という2つの相反する想いが混在し、どちらを選ぶべきか葛藤し苦しんでいた。 あの夜。。 優多の吐息が俺の全身を刺激し、唇を奪った途端に、彼の身体中から陶酔を催す甘美な香りが漂って来て、俺の理性は吹き飛んだ。 優多の自慰行為を手伝うだけと自分に言い訳をし、彼に触れた。 俺の手で愛撫されとろけるような表情をして感じている優多に、俺の心臓は高鳴り、心も身体も激しく彼を求めた。 一方でブレーキが効かなくなるのを恐れ、自分には触れさせなかった。 尊は、そのギリギリのラインをいつまで保てるのか自分でも分からなかった。 まるで綱渡りをしている様な気分だ。。 雛多。。 お前との約束を守れそうにないよ。 俺は、どうすれば良い。。? 尊は、2年前雛多と約束を交わした日に起こった悲しい出来事を思い出し、追憶にふけった。。
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