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第17話 幸せな時間。
優多12歳 ・尊15歳 ・樹季16歳
【2年前】
11月下旬 街はイルミネーションに彩られ、軽快な音楽も流れていて、早くもクリスマスの装いを醸し出していた。
しかし、街の装いとは異なり、空にはどんよりとした雲が広がり、しとしとと冷たい雨が静かに降り始めていた。
優多は母親と兄の雛多と3人でデパートに買い物に来ていた。
来週末には久しぶりに父親が帰国する事もあってか、優多と雛多はいつになくはしゃいでる。
「お母さん。来週お父さんが帰って来たら、皆んなで遊びに出掛けようよ!」
「優多。お父さんは忙しい人だから、帰って来ても俺達と遊びに行く暇は無いかも知れないぞ。」
「え~っ!1日ぐらい良いだろ?ねっ。お母さん。」
「ふふっ。そうね。お父さんも貴方達とお出掛けしたがっていたから、1日は無理かも知れないけれど、日帰りで何処か連れて行ってくれると思うわ。」
「やったぁ~!雛兄、この前お父さんが贈ってくれた、お揃いのマフラーして行こうよ。」
「ああ。そうだな。優多はどっちの色が良い?」
「青と水色のグラデーションカラー!雛兄は黒とグレーの方ね!」
「うん。それで良いよ。」
雛多は優しい笑みを浮かべ、優多の頭を撫でながら頷いた。
「雛多は本当に優多の事が大好きなのね。」
「俺も雛兄の事だ~いすき!あっ勿論お父さんとお母さんも大好きだよ!」
外の雨脚は次第に強くなり勢いを増して来ていた。
それとは対照的に、穏やかな空気が3人を暖かく包み込んでいた。
「さっき、運転手さんに電話しておいたから、お迎えの車が着く迄、1階のラウンジカフェで、お茶でも飲んで待ちましょうか?」
「賛成!!」
雛多と優多が声を揃えて嬉しそうに言った。
3人は買い物した荷物をクロークに預けて、席に着いた。
母親と雛多はコーヒーを飲み、窓の外を眺めながら会話をしていた。
「随分と降ってきたわね。風も出て来たみたい。ほらっ。外を歩いている人達、傘を差していてもずぶ濡れになっているわ。」
「うん。これでは傘を差していても、意味をなさないね。」
優多は、2人の会話をそっちのけで目の前にある大好きなチョコレートパフェと格闘していた。
母親は腕時計に目を落とすと
「そろそろ車が着く頃ね。優多。運転手さんを待たせたら申し訳ないから、早く食べてね。」
優多に笑顔でそう言った。。
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