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第19話 其処には無い筈の物。
「尊兄 、樹季、此処で何してんの?」
「俺達はテコンドーの稽古が終わった帰りだ。歩いていたら急に雨が降って来たから、雨宿りも兼ねてデパートの中をぶらぶらしていたんだ。」
「お前は?1人か?」
「ううん、お母さんと雛兄と一緒に買い物に来たんだ。2人は1階のラウンジカフェで迎えの車を待っているよ。俺はお手洗いに行きたくなってさ、1階にはないだろ?だから2階に来たって訳。尊兄達、もう帰るなら一緒に車に乗って行く?」
「尊、そうしようぜ。」
「うん。じゃあ、そうさせてもらうよ。」
「ラウンジカフェだろ?じゃ、こっちの階段から降りて行こうぜ。」
樹季がそう言い、3人で階段を降り始めた。
突然、凄まじい轟音が鳴り響き、それに伴い建物が揺れ、傾く様な地響きが起こった。
3人は突然の出来事に呆然とした。
階下から、絹を引き裂く様な悲鳴と地鳴りの様な足音が聞こえ、尊達は無意識の内に階段を一気に駆け降りた。
1階にたどり着いたと同時に、3人はその場に立ち尽くした。
煙がもうもうとしており視界を遮ったが、程なくして目が慣れてくると、少しずつその凄まじい情景が視界に飛び込んで来た。
白かった筈の床が、何故か赤色に染まっており、出入り口に向かって叫びながら逃げ惑う人々の足音が、フロアー全体を覆い尽くしていた。
3人は出入り口と反対側にある、ラウンジカフェに目をやった。
先程まで有ったカフェが、まるで始めから存在しなかったかの様に跡形も無く消え去って、代わりに其処には無い筈の一台の大型トラックが占領していた。
尊と樹季は、直ぐ様トラックの方に向かって駆け出した。
お母さんと雛兄は何処に居るんだろう。。
2人共待ちくたびれて先に帰っちゃったのかな?
何であそこにトラックが有るんだ?
尊兄と樹季が何か叫んでる。
どうしたのかな?
優多は生気を失った様な目をし、ぼんやりとその光景を眺めていた。
まるで雲の上を歩いている様な足取りでゆっくりと歩き始めた。
不意にズボンの裾が何かに引っかかった様に引っ張られ、足を止めた。
足元にゆっくりと目を落とすと、女性が倒れており、自分のズボンの裾を掴んでいた。
優多は無意識のうちにしゃがみ込み、その女性に手を伸ばした。
すると突然女性が顔を上げ、彼の目をじっと見つめた。
優多の顔を見ながらも目の焦点は合っておらず、彼女の顔や手は血だらけだった。。
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