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第25話 模索。
尊と樹希は2人を乗せた車が葬儀場を後にするのを見送ると、迎えの車に一緒に乗り込んだ。
車が走り出してから間なしに樹季が独り言の様に小さな声で呟いた。
「10日後ぐらいに発つんだってさ。優多と一緒に居られるのもあと少しの間だけだな。。」
尊は樹季の言った言葉が一瞬理解出来なかった。
彼は困惑した表情で樹季に尋ねた。
「。。え?何で優多と会えなくなるんだ?」
尊の問い掛けに今度は樹季が困惑する番だった。
「。。え?だってそうだろ?おばさんと雛多が亡くなってしまったんだから、優多が1人で此処に残る訳にはいかないだろ?おじさんが発つ時に優多も一緒に連れて行くだろ?」
「。。。」
自分が言った言葉に尊が何も反応してこないのを不思議に思い、樹季は彼の顔を覗き込んだ。
尊が動揺し全身が震えている姿が樹季の目に飛び込んで来た。
「おい。。尊。お前大丈夫か?」
尊は樹季の声が全く耳に入っていなかった。
そうか。
そうだよな。
樹季が予想している事は多分正しい。
いや。おそらく10日後にはそれは現実のものとなってしまうに違いない。。
だが、おじさんと一緒に行く事が本当に優多にとって良い事なのか?
彼はもっと孤独になってしまうんじゃ無いのか?
それに。。
優多が此処から居なくなる?
俺の前から?
あいつが俺の傍から離れて行くなんて考えてもみなかった。
本当にそんな事になっても良いのか?
いや。
無理だ。
俺はきっと耐えられない。。
「おいっ!尊!どうした?」
樹季に肩を叩かれて、尊はやっと我に返った。
「ああ。大丈夫だ。少し考え事をしてただけだ。」
「お前。具合悪そうだぞ。」
「大丈夫だって。少し寝る。」
樹季にそう言うと、瞼を閉じた。
尊は、優多を父親と一緒に行かせる気は毛頭なかった。
既に彼の頭の中は、どうすれば優多を自分の傍に留めておけるのか、その方法を模索していた。
樹季は尊の様子を観察しながら、これから起こるべくして起こるであろう事を予想し始めていた。
こいつ。。
何か突拍子も無い事を言い出すんじゃないだろうな。。
優多への溺愛ぶりを見る限り、このままアイツを素直に行かせるとは思えない。
う~ん。。
面倒な事になりそうだな。
でも、こいつが決心したら、俺はきっと協力するしかないんだろうな。。
2人のそれぞれの思惑をのせたまま、車は家路へと走り続けた。。
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