43人が本棚に入れています
本棚に追加
――ガシャ、ガシャ…。
「ヤァァァァーっ! 面えぇぇぇーんっ!」
ガシャン…!
「胴おぉぉぉーっ!」
気合と気合、竹刀と竹刀のぶつかり合う音が幾重にも重なり、一つの大きな喧噪となって道場内を満たしている……。
そんな独特の雰囲気を持つ喧噪の中、彼女は道場の壁際にちょこんと座り、互いに激しく打ち合う防具姿の部員達を眺めていた。
……否、彼女の視線の先にあるものは部員達ではない。それは、ある一人の男子部員にのみ向けられている。
その人物が踏み込み、あるいは退き、あるいは竹刀を振り上げて打ち込む動きに合わせ、彼女のとろんとした眼差しは懸命にその後を追ってゆく……。
長い黒髪をポニーテールに結び、背に草書体の白字で「日新高校剣道部」と書かれた黒ジャージを着る彼女の名は近藤真琴。この春で二年となる、どこにでもいる平凡な普通の女子高生である。
特に容姿が優れているわけでもなく、かといって不細工かといえば、そうでもない。背も高くなく、けれど低くもなく、ギャル系でもないし、おネエ系でもない、強いていえば多少ロリ系か? 勉強の成績も中ぐらいで、不良でもないし、優等生でもない。運動神経も極めて並のレベルだ。
即ち、これといった特徴の何もない、本当にどこにでもいる平々凡々な女の子なのである。
また、そんな外見を反映してか、特に打ち込める趣味や人生の目標というようなものもまるでなく、彼女はただただ凡庸に日々の高校生活を過ごしている。
そんな彼女がこの日新高剣道部のマネージャーになったのも、別段、何か主体的な動機があったからというわけではなく、先にマネージャーとなっていた友人に誘われ、ただなんとなく入部した……という程度のものであった。
しかし、剣道部のマネージャーになって一年。彼女にも一つだけ心より打ち込めるものができた。
それは……
「あ、真琴、また松平先輩のこと見てるなぁ~?」
となりで同じく体育座りをする黒ジャージの少女が、その無邪気な顔にイヤラしい笑みを浮かべながらそう尋ねた。
セミロングの髪に、堂々と出したオデコが溌剌として見える彼女は佐々木民恵。
真琴の中学時代からの親友にして、この部に誘った張本人である。
最初のコメントを投稿しよう!