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若い頃、山間部にある小さな町で、私は猟師をしておりました。
あれは暑い夏の日のこと。
町役場から連絡を受け、相棒の犬と共に、山へと入りました。
草木をかき分け、慎重に山を進む私の耳にある音が響きました。
チリーン……。
「……鈴の音」
風に乗って微かに聞こえてくる心地よい音――。
相棒の犬もぴくっと耳を動かし、その場を止まります。
チリーン……リリリーン……。
「ああ、そうか……」
と、私は一人で納得しながら苦笑しました。
誰か別の猟師が持っている獣避けの鈴の音に違いない。
町役場の連中は、私だけではなく、他の猟師にも依頼したのだろう。
「信用されてないなぁ……。なぁ?」
相棒の犬にそう冗談めかして言うと、犬はきょとんとして私を見て、またすぐに動き始めました。
私もそれに続くようにして、足を進めます。
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