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1.落っこちた先は森だった。
「それじゃあ、私は適当に散策してくるから」
「ええっ。ひとりで行くの? あとで一緒に回ろうよ」
「だめだめ。私が行きたいのは、観光地から外れた地元の風景なんだから。そういうもののほうが、なんか不思議がつまってそうじゃない?」
「でた。万菜美の不思議発見」
「知られざる地元の常識とか、そういうの好きだよねぇ」
「んっふっふ。まあ、そういうわけだから。集合時間には戻ってくるし」
オシャレなカフェに入るというクラスメイトたちに「じゃあね」と手を振って、篠崎万菜美はセミロングの髪を揺らして坂道を駆け上った。
目の前には歴史的文化遺産の洋館がそびえるように立っている。あちらこちらに、万菜美とおなじ深緑色のブレザーを着たちいさな集団が散らばっていた。
「せっかくの修学旅行なんだから、観光スポットからちょっと外れた地元の感じも、味わわないとねぇ」
声を躍らせた万菜美は、洋館のてっぺんにある風見鶏に目を向けた。風見鶏のクチバシは左に向いている。
「よしっ」
万菜美は左に足を向けた。
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