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万菜美は空を見上げた。――が、木の葉に遮られて空の姿は少しも見えない。影となった木の葉は黒と深緑に見え、光を一身に浴びている葉は淡い緑に見える。
(おんなじ木の葉なのに、おもしろいなぁ)
葉の隙間から降り注ぐ光のまぶしさに目を細め、体の力を抜くと幹がしっかりと万菜美の体を支えてくれた。
「気持ちいい」
あるかなしかの風が万菜美のそばを踊って抜ける。しっとりとした緑の香りが鼻に触れ、深く胸に吸い込めば体内の余計なものが排出される気がした。
(ああ――)
万菜美は目を閉じた。ゆったりとした呼吸を繰り返すと、体中に溜まっていた澱のようなものが、少しずつ皮膚から外へと流れていく。
(なんだっけ。皮膚呼吸っていうんだっけ? それを感じてるって気がするなぁ。……光合成をしている葉っぱみたい)
教科書に載っていたイラストを思い出す。木の葉は呼吸をしている。日光を浴びて栄養を作っている。
(私もいま、きっとそんな感じ)
ふっと万菜美の口の端に、淡い笑みが乗った。背中に当たる幹から、ほんのりとした命の気配が伝わってくる。万菜美の呼吸は自然とそれに重なって、ふわりと意識が浮かんだ。
心地よい漆黒の闇が万菜美の魂を包む。育みの闇はあらがいがたい魅力に満ちていて、すこしも恐怖は感じなかった。
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