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あたしは付き合う理由を聞くのも忘れて、当たり前のように新しい上履きを履く有馬に問いかけた。
「ああ。毎日失くなるんだよね。事務室に行ってスリッパ借りるのも面倒だから」
「失くなるって、え……どうして、もしかして有馬いじめられてるの?」
誰であろうとイジメは許せない。しかも上履きを盗むとか陰湿極まりないと思う。言いたいことがあるならハッキリ本人に言えばいいのに。
「いや、まさか」
「じゃあ……」
どうして、と聞く間もなく有馬は教室へと歩いて行ってしまった。あたしも慌てて後を追いかけながら考える。
だって、有馬さまとさえ呼ばれている有馬をいじめるって誰が──?
男子の妬みとか……はありそうだけど、教室の雰囲気はそんなに悪くない。有馬は面倒見もいいのか、どちらかといえば慕われているように見えた。
席について離れた席に座る有馬を見ると、前の席の男子と楽しそうに話している。
「おはよう。天羽さん」
「おはよう」
桐生さんが笑みを浮かべながらあたしの机の横に椅子を寄せてきた。
「今朝、有馬さまといっしょに登校なさってた?」
桐生さんは寮じゃないのに、本当に人の噂って早い。登校中も何人ものクラスメートとすれ違ったし、有馬といっしょならそりゃ目立つよね。
「ええ……ちょっと」
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