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カーンとゴングの高い音が響き、空気を切るような音の方向を見ると憧れてやまない柊くんの姿があった。
「はぁ~」
思わずため息が漏れた。
ああ、もう神! 美しい上腕二頭筋、それに背筋、腹筋。あまり大きな声では言えないけど、盛り上がった胸筋なんてもう最高に憧れる。
放課後は毎日のようにここに来てるけど、柊くんとは一度も話したことはない。集中力が凄くてきっとあたしの存在なんて目に入ってない。そんなところも素敵だと思う。
どうせなら、柊くんの妹とかに生まれたかった。そうしたら毎日話すこともできるのに。
なんであたしお嬢様に生まれちゃったかな。
別におじいちゃんの後を継ぐわけでもないのに、やれバイオリンだピアノだ。経営学だって……。中学で一番得意な科目は体育だった。運動は大好きだけど、勉強は嫌い。
でも、お母さんが言うにはたくさん勉強して、将来お兄ちゃんの仕事の手伝いをして欲しいんだって。それがあなたのためなんだって。
「蘭ちゃん、今日もやってくかい?」
「いいのっ?」
鉄拳ジムの会長はあたしにとって二人目のおじいちゃんみたいな存在。あたしが天羽家のお嬢様だって知ってて、たまにミット打ちさせてくれる。無心でミットに向かってパンチしている時だけ、自分がお嬢様だってこと忘れられるから。
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